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――レヴィアタンが現れたとき、オイラ、動けなかった。

貴鬼は白羊宮の入り口で、膝を抱えて座り込んでいた。
思い出されるのは、ジュネとレヴィアタンとの会話。
彼女の機転で自分たちは助かった。
相手は巨大な魔獣。しかも圧倒的な力を持っている。
それが分かったからこそ、動けなかった。
「あの人たちだって、槍を投げて闘ったのに……」
敵わないと分かっていても、雑兵たちは一生懸命闘った。
自分は何時からこんなにも臆病になってしまったのだろうか。
あの時自分が何か行動を起こしていたら……。

不意に目の前に人が立っていた。
いきなりすぎて貴鬼は驚く。
「わぁぁぁぁ!」
後ずさりして相手を見ると、その人物は聖闘士ではなかった。
「ク……クラーケンの海将軍」
「……。久しぶりだな」
そこにいたのは、再会を喜ぶ気にはなりにくい相手だった。

「どうして、ここに!」
「……お前、レヴィアタンを見たか?」
どうも相手は会話を成立させる気はないらしい。貴鬼は素直に頷く。
するとクラーケンの海将軍は片膝をついて、視線の位置を貴鬼に合わせる。
「それは好都合だ。ならば気配も分かるだろう」
この問いにも貴鬼は頷く。あの圧倒的な力と存在感は、簡単に忘れられるものではない。
「ならば、明日のレヴィアタン戦では、お前は後方支援に廻ってもらう」
「えっ?」
「女神は聖域から離れないと言っているし、レヴィアタンが今回見逃した若い娘たちの匂いを覚えているとやっかいだ。これは推測だが、レヴィアタンには仲間がいる」
この言葉に貴鬼は驚く。あんな化け物に仲間がいるなど考えたこともなかった。
「な、仲間だって!」
「伝承だけだから、確定ではない。だが、万が一にも出し抜かれて女神や娘たちの前に現れたらこちらの負けだ」
「……」
「彼女たちにくっついて、レヴィアタンやそれに似た気配を探るのに集中してほしい。これはレヴィアタンを見たことのあるお前にしか出来ない」
「オ、オイラが???」
「やってくるかどうかも分からない存在に注意を払うのは、精神力を酷使する。だが、あの時俺から聖衣を守り通したお前の根性なら出来ると思っている」
敵方だった者から自分という存在が認められる。
貴鬼は頷いていた。
「ならば詳しいことは他の聖闘士達が説明をしに来るだろう」
海将軍は立ち上がると、白羊宮を離れる。
貴鬼は立ち上がると彼の背中に声をかけた。
「オイラ、絶対に守って見せる!」
すると海将軍は少しだけ振り返ったように見えた。だが、立ち止まらずに去っていってしまう。
貴鬼は海のある方に視線を向けた。
「レヴィアタンの好きにはさせない」
その瞳は闘い抜くという決意に満ちていた。
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