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「魔鈴が付けたくないなら、このまま獅子宮を通りすぎてくれ」

目の前に差し出されたのは、一輪の赤い花。
魔鈴は相手の顔をじっと見つめた。
「……」
アイオリアの方はというと、そんな彼女の反応にしどろもどろになってしまう。

「その……、無理やり付けるような真似はしたくないんだ」
実力の差から言えば、この瞬間にもアイオリアは魔鈴の髪に花を挿すことは可能である。
だが、彼女が嫌がるかもしれないことはやりたくない。
二人の間にしばし沈黙が流れる。

そしてアイオリアが居たたまれなくなって前に出した手を引っ込めようとしたとき、魔鈴がその花を受けとった。
「!」
彼女は花を胸に飾る。
「綺麗だね。お守りにするよ」

彼女たちが獅子宮を去ったあと、アイオリアは自分の右手を見た。
とても綺麗だった魔鈴。この時ほんの少し触れた彼女のぬくもりを思い出す。

アイオリアは急に自分のしたことを恥ずかしく思い、その場にしゃがみ込んだ。
たが、それ以上に嬉しくて、「今夜、眠れるかな……」と呟いたのだった。
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