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 天秤宮に用意された牡丹の花は、聖域の女官たちが己の技術の粋を集めた造花だった。
 本物を用意するのが難しかったからである。
 ただ、造花そのものは精密だったが大きかったため、ジュネは比較的小さい花を持っていくことにした。

「他の花はどうするんだ」
「全部持って行ったら私の方が身動きがとれなくなるから、紫龍の方で何とかして!」
 そういってジュネはさっさと次の宮へ行ったしまった。
 紫龍としては、美しい牡丹の花たちを持ちながら考え込んでしまう。
 このまま処分では、あまりにも勿体ない。それに作った側のやる気にも関わる。
 どれもこれも見事な作りなのだから。
 女性聖闘士の動きを阻害しないものとは言いにくいが……。

「それなら白羊宮に春麗がいるから、何本か譲ってもらおうかのぉ」
「良いのですか?」
 素人の目から見ても、その造花達は素晴らしい作りである。だからこそ、どれも選ばれなかったのは不憫だった。
「どう考えてもその大きさでは、カメレオン座が嫌がるのは無理ない。それについてはあとで女官たちに伝えるとして、それでも高い評価ではあったと言って労をねぎらうのは悪くなかろう」
 天秤座の黄金聖闘士が大事にしている愛娘への贈り物に使ったのなら、作った者たちのプライドはかなり守られる。
「紫龍。わしは後から行くから、先に花を持って白羊宮へ行ってくれ」
「分かりました」
 紫龍は素直に花を持って天秤宮を出る。
 童虎はニヤリと笑いながら、その姿を見送ったのだった。

 白羊宮では春麗とエスメラルダ、そしてユリティースと貴鬼が談笑していた。
 そこへ紫龍が大量の花を持ってやって来たのである。
 それらは各黄金宮にて、用意はされたが使われなかった花たちだった。
「あの……、私たちは隣の部屋に行きましょうか?」
 ユリティースが気を利かせて席を立とうとするのを、紫龍は慌てて止める。
 春麗も彼女の行動の意味に気づき真っ赤になった。

 彼はテーブルの上に大量の花を置く。
「余剰分の花だから、みんなで分けてくれって……」
 そして彼はさりげなく一輪の薄紅色の牡丹の造花を、春麗の前に置く。
 それは天秤宮で初めて見たときから、彼女に似合いそうだと思っていた花。
 春麗はそれを嬉しそうに手にとる。
 そして髪に挿すと、紫龍に「似合う?」と訪ねたのだった。
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スカーレットニードルという技は、一種の拷問だと言われている。
それは相手の中枢神経に対して蠍座の配列にそって技を打ち込み、15発以内に降伏か死を選ばせるというものだからだ。
しかし、相手に考える時間を与えるだけでも慈悲深いという人もいる。

ミロは天蠍宮へやって来た女性聖闘士を見たとき、問答無用の衝撃というものを食らった。

「……」
シャイナがブーケを持って、目の前に現れたのである。
(ちょっと待て! 花嫁か?)
彼は驚きながらも、次には喜んでしまった。
そして色々な思いが錯綜する。
(このまま先に進ませるのは勿体ない。引き止めようか……。
いや、下手なことをして逃げられたら、今までの苦労が水の泡になる。
それにしても綺麗だ……)
ライバルが増える前に、ここら辺で意思表示をするべきか?
そう考えたとき、シャイナが遅れてやってきたジュネにブーケを渡した。

「やっぱり、その髪飾りは重すぎやしないか?」
そういわれてジュネは自分の髪に付けられた大輪の牡丹の花に触れる。
「でも、この花は服に飾るには大きすぎます。一応、これでも小さいものを選んだんですよ」
どうも話を聞くと、ブーケと思っていたものはジュネが身につけるはずの花らしい。
量が増えて一度付け直したほうが良いということで、外したということだった。
彼はその話に思いっきり落胆してしまう。
(そんなにも都合のいいことは無いか)
何しろ相手はこちらの気持ちに気がついていない。
彼女のベクトルは、たぶん今もあの少年に向けられているのだから。

一目で己の忍耐力に楔が打ち込まれたミロとしては、何事もなかったかのように振る舞う方が拷問に近かった。
 海龍の海将軍であるカノンはたまに聖域にやってくる。
 それは何らかの問題解決のためだったり、私用だったり理由は様々。
 ついでに彼は五回に一回はエスメラルダにお菓子などの手土産を渡していた。

「エスメラルダ。白羊宮でシュンレイに会ったぞ」
 カノンの言葉にエスメラルダは本当ですかと目を輝かせる。
 どうやら今回、天秤宮の主が彼女を連れてきたらしい。
「これを持っていけ」
 カノンの出した今回のお土産は、可愛らしくラッピングされていたクッキーだった。
「あ、ありがとうございます」
 エスメラルダは嬉しそうに微笑む。

 実は彼女、人から物を無償で貰うということに慣れていない。
 その為、最初のころは真っ青になりながら対価を何にするべきか迷っていたのである。
 それでは聖域にいること自体が彼女にとってストレスになってしまう。
 ということで、カノンが贈り物という行為に慣れさせる為、たまに妹分へのお土産を持ってくることになったのだ。
 この場合、他の聖闘士たちが協力などといってエスメラルダに近づこうものなら、サガのほうがストレスで凶悪になりかねない。

 そして、この何気ないイベントは聖域の風紀を劇的に改善したのだった。
 何しろこの二人は邪な思考というのを知り尽くしている。
 裏をかくというのは絶対に不可能なのだ。

 この過保護な後見人たちの努力のおかげか、エスメラルダと女官たちの仲はとてもよかった。
>Aさん
シャカと付き合う(?)には、これくらいの天然というか素直な方が
ストレスにならなそうですよね(何か酷い事を言っているかも……)

乙女座の黄金聖衣とアンドロメダ座の神聖衣の力関係は、
常に乙女座の方がお姉さんという印象だったりします。
アンドロメダ座のほうは、急に力を持ったけどやっぱり妹分というイメージですね。
 7番目の黄金宮を守護する者は、変な条件を出してきた。

「わしは一度しか攻撃できないが、紫龍なら足止めは可能じゃ」
 そういって童虎は弟子に一振りの剣を渡す。
 彼の若き弟子は、困惑しながらもそれを受け取った。
「老師。このようなことをして良いのですか?」
 生真面目な弟子としては、師匠の判断は何かズルイように思えた。
 しかし、童虎はあっけらかんと答える。
「女の聖闘士達は武器を持った者たちから女神や他の神殿の巫女を守ることもあろう。そのときに服が足手まといになっては意味がない」
 この話について、魔鈴とシャイナに拒否権は無い。
「まぁ、戦闘状態を続けたときの動きを知る目安にはなるだろう」
「そうだな」
 手合わせの時間は一人5分。 
 彼女たちもまた紫龍を攻撃しても良いという条件なので、稽古というにはどこか緊迫した空気が漂う。

「あの……、私も……」
 ジュネは最初から自分が除外されていることに不服を唱える。
 しかし、彼女の場合は童虎が相手をするという。
「紫龍におぬしを攻撃することは出来ん」
「何故です!」
「おぬしと紫龍では人間関係の距離が近すぎるんじゃ。あれは身内と認めたものを攻撃出来るほど、割り切りのいい人間ではない」
「でも、それなら魔鈴さんは星矢の師匠ですよ」
「相手が白銀聖闘士なら紫龍が怪我をさせたところで文句は言わん」

 童虎は楽しそうに笑う。

 この二人の会話に魔鈴とシャイナは『確かに、その通りだよ……』という顔をした。
 むしろ老師の秘蔵っ子と手合わせが出来るのである。実力の確認が出来るのは結構嬉しい。
「では、お願いします」
 紫龍は剣を構える。
 童虎から『相手を侵入者として攻撃しろ』と言われているが、どうにもやりづらい。
 そんな彼の様子に、最初に相手をする魔鈴が一言告げた。
「本気で頼むよ。ここで服の機能を見誤った場合、老師のお嬢さんを守り損ねる事態になるかもしれないからね」

 その一言で紫龍も覚悟を決める。

 この世に邪悪が蔓延れば、自分は再び戦場に立つ。このとき春麗を彼女らに託す事態も発生するだろう。
 ならば彼女たちの実力を知っておくことは重要である。

「始め!」
 童虎の掛け声とともに、天秤宮に二つの小宇宙がぶつかりあったのだった。
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